茶器と作法
中国の長い歴史の中で、各時代の「茶」に合わせた作法や、数々の茶器が創作されましたが、ここでは現代の中国茶を賞味するに必要なものに限って、作法と茶器を紹介することにしましょう。

本来、お茶をたのしむことに決まりきった作法などはないはずです。
如何にして美味しいお茶を淹れるかは、各個人の食味が違う以上、個人が工夫しなければなりません。

この自己流工夫を忘れて、入門書や先人の言葉を墨守して、楽しむことを忘れては、せっかく私達の生活の中に定着しかけた「中国茶」も一過性の流行に終わってしまいます。

英国人が茶に砂糖とミルクを入れて飲むという、当時の中国人や日本人からすれば非常識な飲み方を、彼らは「英国紅茶文化」にまで高めました。
私達もせっかく親しんだ「中国茶」を上手に生活に取り込み、「日本式中国茶」文化を築くことが、長く「中国茶」とお付き合いできる要点でしょう。

右上 蜀女看茶 四川省 伍丕慶 撮影
右下 清茶一杯 浙江省 応換棋 撮影
茶器と作法
急須の作法 磁器製茶壺
「 一.」茶器
これがなければ「中国茶」は楽しめないという茶器などありませんが、先人達がこうすれば美味しく淹れられるという工夫が、伝統的な茶器の姿に現れているともいえます。
その意味でも以下に紹介する茶器を総て揃えなければならないということではありません。
貴方の趣味に合わせて、必要なものを取り入れ、その他のものは機能を理解して、現代食器で代用して戴いて良いのです。
その方が現代の生活にマッチしますし、個性が輝いてお洒落でしょう。
中国茶の急須
茶壺
間入の美しい茶杯 手描き蓮花F
茶杯


薄胎 茶海 手描き紫蘭
茶海


茶盤

茶則
茶則

景徳鎮 手作り 手描き蓋碗 君子菊
蓋碗

茶巾 裏
茶巾

中国茶の茶則セット
茶則セット

磁器の茶缶 手描き緑菊花F
茶缶

1.茶壺
言うまでも無く、お茶を淹れるときの主役となる茶器です。
一般的には中国の江蘇省宜與市で造られている「宜與紫砂」の「水平壺」が有名ですが、台湾製の「茶壺」も品質が高く実用性があります。
求める時の要点はなるべく小さいものを選ぶ方が、扱いもし易く、余分な茶葉も使わずに済みます。

2.茶杯
湯飲み茶碗のことです。工夫茶では非常に小ぶりの、飲むための茶杯と、香りを楽しむための聞香杯の二種類を使いますが、家庭で中国茶を楽しむ場合は、このような工夫茶専門の茶器を揃える必要はありません。
しかし、せっかく中国茶を楽しむのですから、貴方の趣味でなるべく小振りな朝顔型の湯飲みを用意されると良いでしょう。

3.茶海
茶海は茶を注ぎ分ける器です。熱せられた茶壺を捌いて、それぞれの茶杯に濃さを平均して注ぎ分けることは難しいものです。
また蓋碗を茶壺の代わりにした場合は、相当な慣れを必要とします。
まして客の前で給仕するときは難しいものです。
この様な場合は、一旦茶海に総て注ぎ入れてから、それぞれの茶杯に注ぎ分けます。
大型のミルクピッチャーのような、取ってと注ぎ口のある器ですが、和食器の片口なども使えますので、貴方の趣味で色々の食器を応用してもかまいません。

4.茶盤(茶池
茶壺を使用する時の受け皿の役目をする食器です。
工夫茶の作法で青茶を淹れる場合、茶壺の外側からも熱湯を掛けて、茶壺の中の温度を保ちますが、その際、注ぎ掛ける湯を受けるのがこの器です。
これには深い皿状のものと、スノコの役目をする蓋付きのものとがあり、材質も陶磁器や竹材、金属や木材等があります。
それぞれ専用の食器として販売されていますが、茶壺が余裕をもって入る深皿であれば、どのような食器でもかまいません。
モダンな単色の洋食器などもお洒落で気が利いています。

5.水盂
茶杯を暖めた湯や、余った湯を捨て貯めておくための器です。
専用の茶器としても販売されていますが、深めの鉢や、口の広い壺状の器で、たっぷりと湯の入る容量があれば使うことができます。これも貴方の趣味で色々の食器を応用して下さい。

6.茶則
茶缶(茶葉を保存している容器)から必要量を取り出して、茶壺に投入するための茶器です。
円筒を半分に切って、一方を堰き止め、一方を尖らせて茶葉を投入し易くした形状が一般的です。
一般には大きな木製のスプーンのようなものが市販されていますが、あまり上品とは言えません。
なるべく竹製のシンプルなものが良いでしょう。

7.蓋碗
清朝の時代に客に茶を差し出すときに使われた、蓋と受けが着いた湯飲み茶碗です。
この器に直接茶葉を入れて湯を注いで、蓋を少しだけずらせて茶葉を漉して飲みますが、中国ではともかく、日本ではあまり実用的ではありません。
これを茶壺の代わりとして早く茶を淹れるときに使うのが一般的です。
また茶葉を糸で縛って花形にした細工茶などを、客に差し出すときには最高の器です。

8.その他の茶器
その他の茶器としては、卓上で茶壺や茶杯を拭くための茶巾、茶壺に詰まった茶葉を通すための茶通、小さな熱い茶杯を掴み取るための茶挟、茶壺に茶葉を入れるときの漏斗の役目をする茶漏斗等がありますが、是非とも必要なものは茶巾と茶挟でしょう。
特に茶挟は茶葉を崩さずに取り出すために必要ですが、現在市販されている左図のような形のものは、茶杯を掴むためのもので、竹製の先よく利くピンセット状のものを選ぶとよいでしょう。

9.保存容器と湯沸し
右図の茶缶は茶葉を保存するための陶磁器製の茶缶です。
これ以外に、錫製のものなどの専門容器がありますが、一般的な二重蓋のブリキ缶の容器でも充分に使用できます。
但し、長時間保存する場合は、密閉容器に入れ、出来れば脱酸素材なども同封し、それをビニール袋などに入れて、二重に密閉して冷暗所(冷蔵庫)に保管しましょう。
家庭で茶を淹れる場合、上図のような湯沸しは必要なく、小型の魔法瓶か、小さなケトルとカセットコンロで充分でしょう。

ここで一言
貴方が中国茶を楽しもうとするとき茶器はなるべく最小限度揃えるようにしましょう。
あまり大掛かりな道具立ては、最後には面倒臭くなって、「中国茶」から離れてしまう原因にもなります。
なるべく気軽にあなた流に楽しみましょう。その方がお客様も気軽ですし、構えずに済みます。
中国茶の茶器は和食器でも洋食器でも代用ができます。
本格的な茶器を揃えることも楽しいものですが、貴方のセンスを活かして、モダンな食器で中国茶セットを創作して下さい。
その方が貴方の個性が輝き絶好の茶飲み話しになると、小生は信じています。
「 二.」お茶の淹れかた
1.はじめに
ここでは一般的な工夫茶の作法を中心に、茶壺を使った茶の淹れかたを述べますが、あくまでも日本での普通の生活の中で、中国茶を淹れるときの順序のようなものとして考えて下さい。
日本と中国とでは生活様式が違いますし、生活の中での常識も違いますので、共に茶を楽しむお客様が首を傾げるようなことや、曲芸的な作法は避けたほうがよいでしょう。
また四〜五人を対象としたものとします。

2.順序
 簡単に順序を説明すると次のようになります。

  賞茶 → 暖壺 → 傾水 → 投茶 → 注湯 → 沐壺 → 時計 → 注茶→ 奉茶

 文字で書くと何やら難しそうですが、内容は簡単なことばかりです。
また要点を掴めばれば自己流にアレンジして、お茶を給仕しても何ら問題はありません。貴方が一番美味しい茶が淹れられる方法を見出して、それが作法として美味しければ、それが最高の作法ということが出来るでしょう。
 次に順序要点をに述べて行きましょう。

3.準備
テーブルの上に使用する茶器と、魔法瓶または湯沸しセットを、貴方が使い易いように配置しておきます。特に魔法瓶や湯沸しセットの置き場は注意してください。
右手で湯を注ぐ人は左側に置いてください。これを反対にして、熱湯の入った薬缶が揃えてある茶器を横断することがないようにしてください。

次に茶壺と茶杯の配置ですが、一つの方法として、茶盤の上に茶壺と茶杯を並べて置く場合と、もう一つの方法としては、茶壺はそれが入る程度の深皿型の茶盤に置き、茶杯は別の茶盤に並べる方法があります。
茶盤が小さい場合や、台湾式に茶杯を並べる茶盤は深いめのお盆などでも充分ですし、丁寧に茶を注ぐ場合は省略することもできます。

4.賞茶
お客様にこれから飲んで戴く茶葉を鑑賞してもらうことです。
茶葉を茶則に入れて、それを小皿に乗せて、お客様の前に差し出せば良いでしょう。
茶則だけでは茶葉もこぼれ易く、差し出すときに不安定になり易いものです。
ここでせっかく中国茶を楽しんで戴くのですから、簡単に産地や云われを説明できれば尚、良いでしょう。

5.暖壺と傾水
まず茶壺の蓋を取りますが、この蓋はテーブルに直接置かずに、小皿や専用の蓋枕の上に置きましょう。
また綺麗に畳まれた茶巾の上でも良いでしょう。
中国では並べた茶杯の上の置くこともありますが、日本人の感覚からすれば行儀が良いとはいえません。
次に茶壺に湯を注ぎ、蓋をします。
一呼吸置いてから、その湯を茶杯に移して温めます。茶海を使って給仕すると場合は、まず茶壺の湯を茶杯に移してから、茶杯に移すようにします。

6.投茶
次にあらかじめ茶則に盛ってある茶葉を、茶壺に投入します。
このときの茶壺の口が狭く、投入し難い場合は茶漏を使いますが、茶壺にあう茶漏はなかなか見つからないものです。
この段階で客前で茶缶から茶則に茶葉を取り出してもよいのですが、この場合茶道で使う「棗」程度の大きさの茶缶でなければ、上手に茶則の上に茶葉を取り出せません。
また大きな茶缶から茶鋏等で茶葉を取り出してもよいのですが、これもこぼさずに盛り付けるのは難しいものです。
やはり事前にしておいた方がよいでしょう。
茶の量は茶壺の大きさにもよりますが、茶壺の底が見えなくなる程度が目安でしょう。

7.投茶
湯は茶壺の口から15センチ程度の高さから注ぎ、湯の中で茶葉を躍らせます。
しかし、最初からその高さで注ぐのは、見当のつけ方が難しいので、最初は低くして、ゆっくりと高くするほうがよいでしょう。
小さな茶壺では一気に注ぎますが、大きなものは三度くらいに分けてもよいでしょう。
湯の量は茶壺の口一杯とし、アクが泡として立った場合は、蓋で擦り切るようにします。

8.沐壺
 茶壺の中の湯の温度を保つ目的で、茶壺に熱湯を注ぎ掛けます。
このとき茶海や茶杯を暖めた湯を使っても、湯沸しから直接掛けてもよいのですが、目的が茶壺の保温にあるのですから、実効を考えると湯沸しから掛けるべきで、中国茶らしい雰囲気を楽しむなら、茶海や茶杯の湯でも良いでしょう。
一般的に湯は器を変える度に10度下がるとされます。特に良い茶葉を使用するときは、この点に注意して判断してください。

9.時計
茶の抽出時間を計ります。飲み慣れた茶葉であれば時間は判るでしょうし、その他の場合は最初は1分を目安として、二煎目からはその結果で時間を調節します。
この時間の間に茶杯や茶海に湯が残っている場合は水盂に捨てておきます。

10.注茶
それぞれの杯に茶を注ぎ分けますが、茶壺から直接茶杯に注ぐときは、一度に注がず、それぞれの茶の濃さが一様になるように、数度に分けて注ぎ入れます。

中国や台湾では茶杯を接して並べておき、連続して茶を注ぎますが、日本人的感覚では無造作に過ぎるようです。
余程、中国茶を演出したい場合以外は、お勧めできる方法ではありません。
このとき、茶壺が茶杯を巡るように注ぐことを「関公巡城」といい、最後に茶壺に残った茶を一滴づつ注ぐことを「韓信点兵」と言います。
また茶壺に湯を注ぐときは高くから、茶壺から杯に注ぐときは、茶壺の口が杯に接するように低くが原則です。これを「高衝低斟」といいます。
また茶盤から茶壺を取りあげるときは、茶壺の底を茶盤の縁で擦切り、滴を切るようにします。
この後、茶壺の底を茶巾でふき取る方が丁寧でしょう。

11.奉茶
 後はお客様にお茶を差しあげるだけですが、なるべく茶托を使いたいものです。特に問香杯と茶杯を使う場合は、お客様に二杯づつ給仕しますので、二杯が乗る茶托は是非とも欲しいものです。このとき茶杯の底や側が濡れている場合は、茶巾で拭いてから茶托に載せます。

12.次の茶
次の茶葉を楽しむ場合は、茶壺や茶杯は取り替えることが原則ですが、家庭ではそこまでこだわることもありません。次の茶葉を楽しむ予定のある場合は、まず茶壺に残った茶葉を茶挟で小皿に取り出し、お客さまの目から隠れる処に置きます。

次に茶壺に湯を注いで洗い、その水を水盂に捨てておきます。お客様から戻してもらった茶杯や茶海にも湯を注いで洗います。
この後は同じことの繰り返しですが、お客さまによっては人の使った食器を嫌がる人もいます。
茶杯の並べ方に気を付けて、茶杯を取り違えないよう気を使いましょう。
 また先に使った茶葉を水盂に捨てることは止めます。
見た目も悪く、
盂の湯が熱ければ茶の匂いが立ち、新しい茶の香りが台無しになります。

13.ちょっとしたコツ
作法を美しく見せるためには、静止するときの自分の手の置く場所を決めて置きましょう。
一つの動作が終われば手を元の位置に戻してから、次の動作に移ります。
こうすれば所作に区切りがつき、待ちの時間も手持ち無沙汰になりません。
これは何も手を膝に置く必要もなく、テーブルの端に自然に見える形に手を戻せば良いのです。
貴方らしく自然で流れる所作ができれば、それで100点満点です。
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