中国茶の種類
1.お茶の種類                   相高茶荘の トップページへ
 中国では一般的にお茶をその製造段階の違いによって大別しています。これがよく言われる「六大茶」です。
 この「六大茶」とは、青茶・緑茶・紅茶・黒茶・白茶・黄茶のことです。これらのお茶は全て一種類の植物、つまり「お茶の木」ですが、学名「Camer sinensis」から製茶されています。
 無論中国にも「お茶の木」以外の埴物から作られている「お茶」もありますし、植物以外が原料になっている「お茶」も例外的にあります。それらは一括して「茶外茶」と呼ばれていますが、ここでは取り上げません。
 また「お茶の木」を使った「お茶」でも「六大茶」に含まれ難い難いかと言えば、「六大茶」は製造工程によって分類しているのに対して、「花茶」はそのベースとして製造された緑茶や青茶等に、乾燥させた色々の花の香りを吸着させたもので、製造方法では区分し難いからです。
 また「お茶」に予め花の香りを吸着させるのではなく、「お茶」を飲む際に乾燥花を浮かべて、香りを楽しむ方法もあります。
 この講習では「お茶」の種類は「六大茶」と「花茶」の七種類があるとしておきましょう。

2.六大茶の区分
 「六大茶」は製造工程によって区分しますが、各々の特徴と製造工程は次の通りです

 
3.青茶
 青茶はわが国では一般的に「ウーロン茶」と呼び習わされていますが、「ウーロン茶」は台湾の青茶の一種類で、「烏龍品種」の茶ノ木から作られる「烏龍茶」のことです。中国茶の総称でもなければ、青茶の総称でもありません。
 青茶は半醗酵茶で、現在では日本などで人気を博しているため、湖南省でも作られるようになりましたが、古くからの生産地は福建省と広東省で、宗の時代より製造が始められたとされています。
 近年は台湾で品種や改良が加えられたため、台湾も新たな生産地となっています。
 最も古い青茶として有名なものは福建省は武夷山の「武夷岩茶」があります。これは「げん茶」と俗称されるもので、その意味は茶の湯の色(水色)と味や香りが濃いことを指しています。
 これらのお茶が明末清初にヨーロッパに輸出されて大好評を博しことは、紅茶の呼び名として「ボビー」や「ボヘア」として現在にも伝わっています。これらの名は「武夷岩茶」の武夷が訛ったものです。


福建省の青茶

 福建省は別称「びん」と呼びます。このため福建省の青茶は、びん北青茶とびん南青茶に大別されます。びん北青茶として有名なものには「大紅袍」(だいこうほう)がありますが、天然記念物のような「茶の木」から作られる特別なもので、中国の国賓に供されるものです。
 これに対して市場に出回っている「大紅袍」は本物の「茶の木」から挿し木で栽培されていますので、厳密には本物の「大紅袍」とは区分しなければなりません。
 この「大紅袍」を筆頭として、「白鶏冠」(はっけいかん)・「水金亀」(すいきんき)・「鉄羅漢」(てつらはん)を加えたものが、「武夷の四大岩茶」と呼ばれる有名銘茶です。
 本来「岩茶」とは「武夷山自然風景区」の九曲渓・三十六峰・九十九岩の景勝の中で、岩にしがみ着くように生えている茶樹から造られるためにこの名があります。このため現在でも生産量は少ないものと考える必要があります。
 岩茶の風味の特徴は薫りや味の濃いことと、「岩韻」(がんいん)と言われる岩茶独特の飲み後の甘い残香がありますが、これを芳香と取るかクセと取るかは、個人の好みで分かれる処です。
 びん南青茶の代表は福建省の南部、厦門市(あもいし)の北にある安渓県(あんけいけん)で造られる安渓鉄観音です。この「お茶」の特徴は蘭の香りと、飲み口が苦くそれが次の瞬間に甘みに変わることで、「岩茶」の「岩韻」(がんいん)に対して、「音韻」と称されています。
 また茶葉に「起霜」と言われる白い斑点があることと、引き締まった螺旋形の球状の姿をしていることが挙げられます。


広東省の青茶

 広東省の青茶で有名な銘茶に鳳凰水仙があります。この鳳凰とは広東省の東部、福建省に近い潮州市にある鳳凰山で造られる水仙品種の青茶です。この水仙品種は大衆的で経済的なお茶として、広東省だけでなく福建省等でも栽培されているお茶です。
 元々はびん北が原産と言われている。この鳳凰水仙の中でも潮州市鳳凰卿鳥らい山原産の「鳳凰単叢」は高級品として名高い。「単叢」とは一株単位で栽培され、その株から製茶されるという意味です。マスカットのような香りと、苦味の少ない風味とされている。
 「鳳凰単叢」はその名で商品として販売されているだけでなく風味の違いを強調するために「黄枝香」・「通天香」・「蜜蘭香」等の茶銘で商品化されています。また潮州市は現代の中国茶の作法として有名な工夫茶の発祥の地です。同じ広東省「万古坪」は烏龍茶の原型に近いものとされる。


台湾の青茶
 中国茶といえば「ウーロン茶」と言われ、ウーロン茶といえば「凍頂烏龍茶」の名が出るほど、台湾の青茶として「凍頂烏龍茶」の存在は有名です。凍頂山は台中県の中心都市、台中市の南の南投市にあります。海抜八百から九百米の高地にあり、年間平均気温20℃、年間平均降水量二千五百ミリで、霧がよく発生し、茶の栽培には好適地とされています。
 また台北県台北市郊外の文山地区で造られる「文山包種茶」も醗酵度の低い、緑茶に近い飲み口の青茶として有名です。この「包種茶」とは色々な品種の茶葉をブレンドしたものという意味です。
 このほか「安渓鉄観音」と同じ名の「台湾鉄観音」という茶もありますが、これは鉄観音品種の茶葉でなく、製法も多少異なるようです。それより近年の台湾では「四季春品種」や「金萱品種」の新しい茶が商品化されています。中国茶として日本に輸入される量も多く、一般的中国茶より日本人好みの味と安定した品質が魅力でしょう。


4.青茶の製造工程
 半醗酵の青茶の製造工程は基本的には次のようになります。

       萎凋 ⇒ 揺青 ⇒ 炒青 ⇒ 揉捻 ⇒ 乾燥
       いちょう    ようせい  しょうせい  じゅうねん 

萎凋とは茶葉を萎らせることで、屋外で直接日光に当てる方法を日光萎凋といい、中国では晒青(しせい)といいます。同じ屋外でも日陰で行えば日陰萎凋となり、涼青(りょうせい)と言います。室内で行う場合は室内萎凋となり、做青(さくせい)となります。この三通りの萎凋を組み合わせることで、個々のお茶の特徴を出します。
揺青(ようせい)とは茶葉に振動を与えながら攪拌したり、両手で持ち上げて揺り落とすことです。
 茶葉は茶摘した時から時間と供に、徐々に自然発酵を始めます。青茶ではこの二つの工程の間に発酵が進み、次の炒青(しょうせい)の工程で醗酵が止められます。この炒青とは熱処理によって発酵の活性を止める殺青の一種類で、釜で茶葉を炒る熱処理方法のことです。殺青にはその他に蒸篭等で蒸す蒸青、直接火で炙るこう青、直射日光による晒青(しせい)があります。
  揉捻(じゅうねん)とは茶葉を揉んで、茶の成分を抽出し易くするためするための工程で、青茶では直接手で茶葉を揉む以外に、木綿の袋に少量づつ詰めてから、手で揉み球形の茶葉に仕上げる包揉があります。特に台湾の「凍頂烏龍茶」は同じ包揉でありながら足で揉むことに特色があります。
 工程の最後は乾燥で、これにより「毛茶」と呼ばれる半製品の荒茶が出来上がります。これらの工程の前に茶摘がありますが、青茶の場合は原則として若い芽は摘まず、芽が葉となって三.四葉になったときに摘み、これを「開面採」といいます。
芽を摘まない理由は、芽が青茶の香気を引き出す際の障害になるためで、青茶独特の香気は成熟した茶葉からでしか引き出せないと言われます。


岩茶の工程

青茶を代表する「岩茶」の製法は次のようになります。

   1.開面採 ⇒ 2.晒青 ⇒ 3.涼青 ⇒ 4.做青 ⇒ 5.炒青 ⇒
   6.初揉 ⇒ 7.復炒 ⇒ 8.復揉 ⇒ 9.水焙(毛火) ⇒ 足火

茶摘の後、直ぐに晒青を行うのが「岩茶」の特徴です。竹笊に入れて立て掛けますが、日差しの強弱により時間は調整されますが、20〜120分程度です。この段階で茶葉の重量は10〜15%減少し、青臭さが消え、軽く萎凋の香りが立ち始めます。それを日陰に移して熱気を冷ますのが涼青です。
  次に室温21〜27℃、温度70〜85%の密閉した室内に、8〜12時間置いて做青の工程となります。この間に茶葉に回転振動を与えたり、手作業で攤青(茶葉を広げ散らすこと)を繰り返し行います。
 これまでの工程で適度に発酵した茶葉を1〜1.5kgづつ、180から220℃に熱した釜に移して炒青することにより、発酵を止めます。次に1回目の揉捻を行いますが、これを初揉と言います。これが終わると茶葉は再び釜に移され、復炒という2度目の火入れがされます。それが終わると乾燥となりますが、1回目の乾燥を水焙(または毛火)と言われ、含水率を30%程度に落とします。
  一旦冷やされた茶葉は夾雑物を取り除いた後、5〜6時間広げられたままにされます。最後に2度目の仕上げ乾燥として、100℃で1〜2時間程度行い製品となります。


5.緑茶
 日本人が日常飲んでいるお茶が緑茶ですので馴染みが深く、中国茶に入門するにはよい切り口と思われ勝ちですが、緑茶の風味の違いからあまり日本人に中国緑茶が好まれることは少ないものです。しかし、そこはお茶の故郷「中国」です。きっと貴方好みの緑茶もあります。腰を据えて味わってみましょう。
 緑茶は「六大茶」の中では最も歴史が古く、それだけ銘茶と言われるものも数多くあります。それらを殺青方法で区分して説明してみましょう。青茶の項で記述した通り殺青は醗酵を止めるための熱処理のことです。その殺青の種類も青茶と同じく、炒青・蒸青・こう青・晒青の四種類があります。


炒青緑茶

 炒青緑茶を日本流に言えば「釜炒り緑茶」となります。中国では最も一般的な製法ですが我国では例外的製法で佐賀県の嬉野茶や熊本・宮崎両県の青柳茶等が代表例です。緑茶は殺青方法で風味が大きく変わるため、炒青緑茶の多い中国緑茶が不評である理由はこの辺にあるようです。
 釜で炒って殺青される炒青緑茶は仕上げられる茶葉の形状によって、長炒青・円炒青・扁炒青に分けられます。
長炒青
長炒青はよじれた棒状に仕上げられたお茶で、代表的銘柄としては「眉茶」があります。名前の通り眉のような姿をしている処からこの名があります。安徽・浙江・江西三省が主産地です。
 製品名は産地により、安徽省は「屯緑眉茶」や「舒緑眉茶」、浙江省は「遂緑眉茶」とか「杭緑眉茶」、江西省は「ぶ緑眉茶」や「曉緑眉茶」と呼ばれています。
 これ以外に湖南省の「湘緑眉茶」、湖北省の「鄂緑眉茶」、貴州省の「黔緑眉茶」も有名です。またこの区分にはいる「特殊緑茶」(高級銘柄茶として中国で区分される)としては四川省の「蒙頂茶」、江西省の「廬山雲霧」・「ぶ源銘茶」、河南省の「信陽毛尖」、貴州省の「都塩ム尖」、安徽省の「六安瓜片」などがあります。
 最も早くヨーロッパに輸出されたお茶はこのタイプで、現在でもモロッコやアルジェリアで好まれます。
円炒青
円く粒状に揉捻される円炒青は真珠に例えられ「珠茶」とも言われます。浙江省の紹與や奉化を含む「水平茶区」の特産で、一般には「水平珠茶」とよばれています。
 この種のお茶が初めてヨーロッパに輸出されたときは、コングー(貢熙)とかパウダーと呼ばれ、「武夷岩茶」と並んで高級品として扱われました。
扁炒青
平たく押し潰したよな姿に仕上げられたお茶です。中国で茶の中では最も有名な杭州の「龍井茶」がこれにあたります。当然「龍井茶」は「特殊緑茶」です。これ以外には安徽省の「老竹大方」や「天柱剣毫」などがこれにふくまれます。
こう青緑茶
火で炙って殺青する緑茶をこう青緑茶と言います。産地は中国全土にありますが、主産地は浙江・安徽・福建・湖北・湖南の各省です。とくに安徽省南部と浙江省西部一帯が良質の産地と言われています。
 このこう青緑茶は香りの吸着性がよく、「花茶」再加工原料として利用されることが多く、日本人にも馴染み深いジャスミン茶等にも使われています。再加工用以外の高級品には「特殊こう青緑茶」に含まれる、安徽省の「黄山毛峰」・「太平耕猴魁」、浙江省の「雁蕩玉露」があります。
晒青緑茶
日光で殺青する晒青緑茶は、中国西南各省が主産地ですが、多くの場合乾燥も同様の日光で行うため、特殊な風味となり、主産地の人々にしか好まれていないのが現実です。
 四川省の晒青緑茶を「川貴」、貴州省のものを「黔青」といいます。後述しますが「黒茶」でレンガ状やお碗状に緊圧した、磚茶(せんちゃ)や陀茶はこれら晒青緑茶を原料として、湿らせることで「後醗酵」を促して製品化しています。



6.緑茶の製造工程
 緑茶は「六大茶」中では最も製造過程が単純化されて、下記のような三工程からなっています。
                   殺青 ⇒萎凋 ⇒ 乾燥

 緑茶は無発酵茶でありますので摘まれた茶葉は、直ぐに殺青の工程に入れられ発酵が止められます。この殺青と言われる熱処理に炒青・こう青・蒸青・晒青があることは前述しました。次に揉捻の工程で茶葉はその成分がより抽出し易いように揉まれますが、この工程の違いにより、製茶後の茶葉の姿が長く捩れたり、丸い粒状になったり、扁平な姿に成型されます。この後乾燥させることで製造工程は終了しますが、たった三工程の製造工程が、緑茶の種類で色々工夫されています。その例を告ぎに挙げます。


碧螺春の工程

杭州の龍井茶と並び、中国の二大緑茶と言われる蘇州の碧螺春の製造工程は、前述した三工程の通りですが、碧螺春の場合は一人の職人が、一つの炒り釜で連続的に三工程をこなして行きます。このため「茶」の出来の良し悪しは、一人の職人の技能のみに掛かってきます。職人芸という表現が将に当てはまります。
 この碧螺春というお茶を初めて見られると粉か、悪く言えば埃のように見えます。これはこのお茶が全て芽から造られているためで、その芽の数は五百gに六千〜七万個あるとされています。このお茶の高い香りは、清代康熙帝の時代までは「嚇殺人香」と名付けられていたと言われる程です。この名を雅でないとして、碧螺春の名を与えたのは蘇州に南巡した康熙帝だとの伝承も持ったお茶です。


7.紅茶
 中国茶の中に紅茶が入っていることを奇異に感じる人もいるかも知れません。紅茶と言えば「英国」が植民地時代にインドで開発し、インドやスリランカのプランテーションで栽培されたものと思われている方も少なくない筈です。しかし、紅茶はれっきとした中国茶の一つです。このように紅茶は日本人に誤解されています。
 同じようにヨーロッパへのお茶の伝播に付いても誤解が多いのです。この辺りのことは後段の「お茶の世界史」で述べるとして、ここでは中国のお茶に付いてのみの話としましょう。
 紅茶に付いては専門家の間でも二説があるようです。一つは中国茶がヨーロッパに輸出される前から、紅茶は中国で生産されていたとする説。もう一つは中国茶のヨーロッパが本格化したときに、より相手方の嗜好に合うものとして生産されていたとする説です。
 これは小生の個人的説ですが、英国では紅茶は「紅茶」と言わずに「ブラックティー」と表現されます。これに対して「ブラックティー」の言葉が出来るまでは、「お茶」を全般的に呼ぶ時に「ボヒー」(武夷の訛ったもの)という言葉が使われていました。これは英国でお茶の輸入が本格化したとき、主力製品が「武夷」のお茶であったことを示しています。
 また当時銘柄が明確なもの、例えば「松羅茶」は「シングロ」、「水平珠茶」は康熙帝に貢茶されていたとのことから、「熙春」との別名をもち「ハイスン」と訛って名が伝わっています。当時の東洋趣味からすれば、遥かなる憧れの東洋の珍しいお茶を表現する時、なるべく現地の名前をそのまま発音する方がそれらしい感じがするでしょう。とすれば当時に中国側で「紅茶」という明確な区分があれば、「紅茶」は「レッドティー」と呼ばれた方が自然です。
 こんな簡単なことを根拠に、17世紀中葉から18世紀初頭の時代、中国でも明確に「紅茶」という明確な区分は存在しなかったと思っています。当時の中国貿易は広州の十三の広行(貿易が許されている御用商人)だけが貿易窓口となる管理貿易でしたので、外国人が自由に商品を探すことは出来ませんでした。そこでより英国人の嗜好に合う濃い風味のお茶が公行により求められ、最後に現在の「紅茶の原型」となる商品に自然に移行したのではないでしょうか。その後、その「紅茶の原型」が輸出専用として生産量が増えると伴に「紅茶」という分野が独立したのではないか、小生はそう勝手に思っています。


8.紅茶の製造工程
 紅茶の一般的な製造工程は書きのようになります。青茶の製造工程との違いは、青茶にある殺青がなく、青茶にない発酵の工程が加えられています。
 殺青は萎凋の段階から徐々に始まる茶葉の自然発酵を、熱処理によって止める工程ですが、これが紅茶にはありませんが、紅茶にはわざわざ発酵工程が設けられています。これが青茶の半発酵と紅茶の発酵の大きな違いですし、紅茶が青茶から分化したものとされる処です。

               殺青 ⇒ 初捻 ⇒ 渥堆 ⇒ 復揉

工夫紅茶の製造工程
 「工夫紅茶」の工程は「祁門紅茶」も「てん紅」もその他の銘柄も基本的には同じです。また上記の一般的な紅茶の製造工程とも大差はありません。ここでは陳椽教授編纂の「製茶学」から、工夫紅茶の製造工程を説明します。
 第一段階の工程の萎凋は萎凋槽萎凋という半機械式の萎凋と、日光萎凋と室内自然萎凋の三種類があり、萎凋槽萎凋以外は自然条件下のコントロールが難しく、現在は萎凋槽萎凋が主流となっています。第二段階の揉捻工程は機械化され、一度に150kg程度を揉捻機に投入し、三回に分けて一度に30分づつ揉捻されます。
 この揉捻工程の間に加圧減圧が繰り返され、最後に固まった茶葉を解きほぐし工程を終わります。第三段階は「工夫紅茶」にとって最も重要な醗酵です。醗酵には温度・湿度・通気が三大要素となります。とくに通気は茶葉を広げて積む厚みで調整します。通常は八〜十二センチで二〜三時間程度です。最終段階の乾燥は「毛火」と「足火」の二工程に分けて行います。最初の「毛火」は110〜120℃で10〜15分。
 これが済むと40分程度冷却し、「足火」は85〜95℃で15〜20分。これで荒茶(毛茶)の出来上がりです。この後選別を行い、最後に補火(火入れ)して製品となりました。
 

9.黒茶

 「黒茶」は茶葉の自然発酵を殺青によって止め、後に醗酵菌の作用で発酵させるものです。このため黒茶は後発酵茶とされます。一般的に黒茶イコール普耳茶(プーアル茶)と決め付けられますが、「黒茶」には広西クワンチ自治区の「六堡茶」というものも含まれます。
 お茶は通常は新茶が好まれるように、新しいお茶の価値が高いものですが、「黒茶」だけは「陳茶」といわれる、製造してから長期間ねかせたものが尊ばれますが、現在では需要が多く長期間熟成させる余裕が少ないのが現実のようです。
 また「黒茶」の特徴として色々の形に再加工される場合が多く、六大茶の他の種類のように、茶葉のままで製品化されているものは少数派で、レンガ状やお碗状に加工され固形茶として商品化されているものが大部分です。近年日本でも、海外旅行先の香港等の「飲茶」で普耳茶の味を覚えた人も多く、またダイエットに効果があるとの風評などで、普耳茶の愛好家も多くなっています。
 最近ではペットボトルや缶入りでもこのお茶が販売されるようになり、個性的な普耳茶も一般化されています。


10.黒茶の製造工程
「黒茶」の製造工程は一般的に下記のように説明されています。しかし前述したように「毛茶」とよばれる、「緑茶」の半製品を原料として使用する「黒茶」もあるため、各製品によって製造工程の詳細は異なっていると思われますが、残念なことに各種書籍等には記載されていませんので、個々の工程の詳細は説明できません。

一般的に説明される「黒茶」の製造工程
             
            萎凋 ⇒ 揉捻 ⇒ 醗酵 ⇒ こう青
しかし、このような工程で説明できるのは「散茶」(葉茶)だけではないでしょうか。なぜなら後発酵工程の渥堆の後、復揉からこう青に掛けて茶葉は乾燥を続けます。従ってこれで製品化された「黒茶」は、祭度加熱と加湿しない限り、一定の形に緊圧して「固形茶」に加工することは出来ないことになります。ですからこの工程で「黒茶」のとしての「餅茶」や「沱茶」が出来る訳ではありません。これはあくまでも「黒茶」そのものを造る工程と考えてください。

「黒茶」の固形茶の製造工程

炒青緑茶
晒青緑茶
蒸気加熱
蒸気加湿
⇒ 柔捻 ⇒ 渥堆 ⇒ 成型




ろう装の「黒茶」の製造工程

炒青緑茶
晒青緑茶
蒸気加熱
蒸気加湿
⇒ 柔捻 ⇒ 成型 ⇒ 後醗酵




現在の「黒茶」の製造工程は、上記のように「緑茶」を原料としています。一旦製品化されたものを再度蒸して柔らかくし、麻袋に入れて足で踏みほぐした後、各種の形にプレス成型して、「固形茶」に仕上げます。また成型せずに、蒸した茶葉を熱い内に竹籠に詰めて密封して製品化し、寝かせて熟成させる間に後発酵させる「ろう装」といわれる商品もあります。
 最後に孔祥林氏の著書に記載されている「唐代」の「普耳茶」の原料となっていた「蒸青緑茶」の製造工程を参考に記載しますので、これから現代の「普耳茶」がどのように進化したかを想像してみてください。「黒茶」の「謎」が貴方によって解かれると、ひょっとするとノーベル賞が貴方に……ソンナコトハ、タブン、ナイデショウ…

「唐代」における「普耳茶」の原料緑茶の製造工程

    蒸青 ⇒ 柔捻 ⇒ 風干 ⇒ 復揉 ⇒ 晒干
このようにして製品化した緑茶を、蒸圧成形したものが雲南緊圧茶であったそうです。


11.黄茶
 水色の黄色、爽やかな味と高い香気を特徴とする「黄茶」の歴史は、「明代」の16世紀に始まるとされます。「緑茶」の非発酵(不発酵)、「紅茶」の発酵(全発酵)、「黒茶」の後発酵に対して「黄茶」は「白茶」と並んで弱発酵といわれます。本質的には「緑茶」に近いお茶で、「緑茶」の製造工程に「悶黄」という工程が追加されただけともいえます。「紅茶」や「青茶」の発酵や半発酵は茶葉の自然発酵によっていますが、「黒茶」は茶葉の成分のカテコールの自然酸化によるもので、その度合いは「黒茶」に比べて軽いものです。
 中国では「黄茶」に加工される原料茶葉の柔らかさにより、「黄大茶」と「黄小茶」に分類されます。「黄大茶」は安徽省雪山、六安・金塞・岳西・や、湖北省の英山などの地域で作られるもの。「黄小茶」は四川省の「蒙頂黄芽」、湖南省の「君山銀針」、湖北省の「遠安鹿苑」、浙江省の「平陽黄湯」等とされます。これで見る限り「高級黄茶」が「黄小茶」、つまり柔らかい茶葉を原料としたものと思われます。



12.黄茶の製造工程
 黄茶の製造工程の概略は下記に記載しますが、ここでも「黄茶」各銘柄で最も特徴の出る工程が「悶黄」です。

   殺青 ⇒ 揉捻 ⇒ 初こう ⇒ 涼 ⇒ 再こう ⇒ 悶黄 ⇒ 乾燥
                       たんりょう
「殺青」や「揉捻」はもうご存知でしょう。「こう」は「こう焙」の「こう」で火をたいてあぶるという意味です。
 「攤涼」とはあぶった茶葉を広げて冷ますとういう作業です。海南省岳陽の「北港毛尖」の場合は工程順が異なり、「殺青」と「揉捻」を済まされた茶葉は最初の火入れの「初こう」で熱を加えて6割程度水分を飛ばし、火から下ろすと箕の上に広げられ、上から布を掛けて30分程放置して、カテロールの自然酸化を待つ「悶黄」を行います。その後釜に戻すと二度目の火入れ「再こう」を行い、水分の8割程度を飛ばします。
 最後に炭火で乾燥させて製品となります。この「黄茶」だけにある「悶黄」という工程は、例として出した「北港毛尖」の場合は30分程度ですが、浙江省の「平陽黄湯」の場合は二〜三日、湖南省の名品「君山銀針」の場合は、紙袋に詰めた茶葉を木箱に入れて二度に分けて行い、初回は48時間、二度目は24時間と念入りに行われます。


13.白茶
 「白茶」は「萎凋」と「乾燥」の二工程だけの製造工程の為、自然発生的な「お茶」として長い歴史があると思われがちですが、案に相違して歴史は比較的新しく、「清代」の嘉慶帝の嘉慶元年(1796年)に福建省で製造が始められたと言われます。
 当時は地元の茶葉の芽を使っていたため、あまり商品価値が高くなかったのですが、1885年から「福鼎大白茶」という優良品種から製茶するようになり、現在のような「白茶」の生産が始まりました。
 このため現在の主産地も福建省で、福鼎・政和・松渓・建陽各県で生産され、一部台湾でも少量生産されています。水色は黄色といわれる緑がかった淡い黄色で、さっぱりとした味と香りで、仄かな甘い後味があるとされますが、日本人には「黄茶」と同様にクセがあるように感じられます。


14.白茶の製造工程
 「白茶」の製造工程は、青茶職人の勘だけが頼りの自然まかせが基本のようです。工程は「萎凋」と「乾燥」の二工程だけで、ゆっくり自然に萎えさせ、ゆっくり自然に乾燥させるだけです。しかし原料となる茶葉は芽に白亳の多い「福鼎大白茶」等を使わなければ製造することは出来ません。
 しかし、ここで小生の悪い癖が頭を持ち上げます。この「白茶」の工程に、何となく「お茶」の原初的製造方法」を感じるのは小生だけでしょうか。ひょっとして福建省のある地域では農家の自家用として、「白茶」の古い伝統があったのではないか、その古い伝統の「自家用白茶」の味に親しんだ福建省出身の華僑の人々から求められ商品化され、またそのような海外の華僑の人々からヨーロッパへの伝播となった。そうすると「殺青」を必要とする「緑茶」は、高温多湿の雲南省の少数民族が起源のお茶で、「白茶」は「茶の木」の伝播を別にすると、温帯での漢民族起源の「原初的お茶」ではないだろうかと推理しているのですが?


15.花茶
 お茶は吸着性が高く、保存場所が悪いと直ぐにイヤな臭いを吸着させ、風味を台無しにすることもあります。この性質を利用して芳しい花の香りを着けたものが「花茶」です。
 香りに敏感な中国の人々が「お茶」に香りを着けて楽しむことには古い歴史があると思われます。しかし、それらは自家用としてや、皇帝や貴族の趣味の世界で行われたことで、商品として開発されたのは「清朝」第九皇帝の感豊帝の時代です。
 当時の貴族や金持ちの間では「嗅ぎ煙草」が愛用されており、北京の「汪正大商号」という煙草屋さんが煙草に香りを着けることを思いつき、煙草を福建省の長楽県に送って加工させて、販売した処「大人気」の「大儲け」、これを横目でみていた御茶屋さんが「花茶」を発案したのです。
 今風で言うと販売促進が目的の商品開発ですから、最初は安物の緑茶を加工して「一儲け」を企みました。(失礼…)同じ柳の下にはドジョウは二匹居ないものですが、北京には居ました。今では華北を中心に需要も高く、中国茶の代表選手にまで成長しました。当然現在では高級茶葉を使った「高級花茶」も多種多様に生産されています。
 「花茶」といえば「ジャスミン茶」と言われる程、「ジャスミン茶」は「花茶」の代表選手(代表選手って言葉、さっきも使ったってもう…じゃァオリンピック選手でどう…)「茉莉」・「大花茉莉」・「白花茉莉」・の三種で、この内「花茶」に使われるのは「茉莉」ですが、これにも約60種類もの品種があります。
 しかし、「花茶」に使用するときはそれ程細分せず、花弁が単層に「単弁茉莉」、複層の「双弁茉莉」・多層の「多弁茉莉」に分けるだけです。この内殆ど「双弁茉莉」が使われ、「単弁茉莉」は福建省の長楽県、「多弁茉莉」は四川省で少量が生産されています。生産地は生産量順に福建・広東・台湾・浙江・江蘇・四川…となります。


16.花茶の製造工程
 「花茶」は製品となった「お茶」に花の香りをつけるものですので、原料となる「お茶」の製造工程は省略します。まずジャスミン茶を例としての花摘みですが、開いた花を摘むのではなく、摘んだ当日の夜に開花するように時期を調節します。
 花と茶葉の用意が出来ると香りを吸着させる工程に入ります。この工程を「くん花」といい、最後に新鮮な花を混入する工程を「提花」といいます。「一級ジャスミン茶」では「三くん一提」、最高級品では「七くん一提」となります。花と茶葉を交互六〜七層積み重ね、花の呼吸熱で全体が45℃になると「攤涼」し、これで「一くん」となります。
 一時間ほど冷却すると再度積重ね、次の「くん花」の工程に入ります。所定の「くん花」が完了すると、篩で花を取り除き、「こう焙」してから「乾燥」します。最後に「提花」を行って製造過程を終了します。

一級ジャスミン茶の製造工程(三くん一提の場合)

くん花涼 ⇒くん花涼 ⇒くん花⇒ 分離 ⇒こう焙 ⇒ 乾燥

原料となる「緑茶」は「炒青緑茶」より「こう青緑茶」の方が多いのです。これは「こう青緑茶」が吸着力が高いためで、「花茶」の特色である香り着けの効果がより明確に現れるからです。

長い間「六大茶」+1にお付き合いくださって、ありがとうございます。

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